お客様の課題
火災時に安全に避難できる病院を設計したい
某設計会社様は、ある病院を設計していました。その病院では災害対策の一環として、万が一火災が発生した場合において、病院内にいる全ての人が安全に避難できることが求められていました。
病院の特徴として、入院患者、外来患者、医療スタッフ、面会者など多様な人が滞在していること、時間帯によってはその人数が変動することなどがあり、さまざまな条件を考慮する必要があります。
そこで、さまざまな条件下で安全な避難をするためには、どのような設計が良いか評価を行い、検討したいと考えていました。
課題を解決した結果
さまざまな条件下において安全に避難できる病院設計ができた
設計案に対し、安全に避難が可能かどうかを火災避難シミュレーションによって評価しました。
① 避難時間:火煙が広がるまでに避難を完了できるか
② 混雑度:特定の場所が混雑していないか
避難者や火災の条件を変えてシミュレーションを行い、これらの観点に注目し評価を行いました。そして、この病院の設計案が「自力で避難できない患者さんがいても避難を実施できるか?」「夜間や休日などスタッフが少なくても避難できるか?」といった事象に対し、安全に避難できるものであることを検証できました。
また、シミュレーション内での人の移動や、避難時のフロアの様子などを視覚的に示すことで、設計案の安全性について総合病院運営の方々にも納得し安心していただくことができました。
解決のために行なったこと
火災避難シミュレーションを実施し、設計の検討を支援
「シミュレーション」とは、予測や分析のために現実を模したモデルによって行う仮想実験のことです。火災避難のように、稀にしか発生しない事象についての対策を検討する際には、シミュレーションを実施し対策の効果を定量的に見積もることが効果的です。
病院の火災避難の検討では、入院患者、外来患者、医療スタッフ、面会者等さまざまな人がいることに考慮が必要です。また、避難のサポートや混雑などのように、ある人の行動が他の人の行動に影響することも想定しておかなければなりません。こうした状況を反映できるシミュレーション手法として、マルチエージェント・シミュレーション*があります。
*複数(マルチ)の「エージェント」を用いた仮想実験(シミュレーション)のこと。
「人(エージェント)の条件、空間の条件等を自由に設定できる」「エージェント同士の相互作用を表現できる」「何度でも実験できる」といった特徴を持つ。
私たちは、長年培ってきたマルチエージェント・シミュレーションの技術・ノウハウを駆使して火災発生時の避難シミュレーションを実施し、より安全な病院の設計に貢献しました。
本件では、次のプロセスを実施し、設計の検討を支援しました。
【 実施プロセス 】
STEP1. シナリオの検討・シミュレーションモデルの構築
シミュレーションにおいて考慮する条件を整理し、火災発生時シナリオを検討しました。また、検討したシナリオを実施するため、実際の設計図面案に基づき仮想空間に病院のフロアを作成しました。
その際には、マルチエージェント・シミュレーションの特徴を用い、以下を表現しました。
- 病院に関わる様々な人の特徴(看護師の動き、お見舞いの人の動きなど)を表現
- 避難者同士の行動の相互作用(混雑など)を表現
【 シナリオにおいて考慮する条件の例 】
例えば下表のように、シミュレーションの対象とする人・空間等の種類や特徴を、具体的に定義します。
避難者 | 入院患者、外来患者、医療スタッフ、面会者 |
施設 | 病室、診察室、待合室、手術室、ナースステーション、階段、エレベーター |
シナリオ条件 | 時間帯、出火場所、避難経路、初期消火の有無、火災通報のタイミング |
【 シミュレーション画面のイメージ(2D)】
【シミュレーション画面のイメージ(3D)】
STEP2.シミュレーションの実施・評価結果の分析
STEP1で構築したシミュレーションモデルで検討したシナリオを実施し、次の観点で評価を行いました。
① 避難時間:火煙が広がるまでに避難を完了できるか
② 混雑度:特定の場所が混雑していないか
【シミュレーション結果の評価イメージ】
《 避難完了時間のグラフ 》
《 通路の混雑度を表すヒートマップ 》
STEP3.課題の抽出・改善案の検討
評価結果の分析によって火災避難における課題の抽出を行った結果、火煙が充満する前に避難が完了するものの、避難に使用する経路で混雑する箇所があることが避難時間の伸長の要因となっていることがわかりました。そこで次のような観点で課題を改善するための対策をご提案しました。
- 避難通路の幅を見直し、通れる人数を増やす
- 避難誘導設備を改善し、火災の検知や通報にかかる時間を短縮する
- 防火設備を増設し、火煙の広がりを抑制する
対策案を反映したシナリオを再度検討し、そのシミュレーションを実施して検証を重ねることで、安全性を高めるための提案を行いました。
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